virgilの日記

映画、シリーズの感想多めです。

「事件現場から セシルホテル失踪事件」

LAのダウンタウンにある悪名高きホテルで起こったカナダ人女性失踪事件。捜査に行き詰った警察は、エレベーター内での女性の様子を映した防犯カメラ映像を公開する。女性の不可解な行動が様々な憶測を呼び、人々は色めき立ってあれこれ詮索し始める…。

 

f:id:virgiltx:20211211182809j:plain

 

全編に渡って漂う、ユーチューバーやネット探偵への不快感がほんとにきつい。また公開された映像がいかにもオカルトや陰謀論に絡めていろんな想像をかき立てる代物だったのも不運。とはいえ、いや、これドラッグかなんかで幻覚見てるでしょ…とすぐわかりそうなものだったけど。みんなでミステリーを解く興奮を共有して楽しんでいるのを見ると、分からないでもないけど、これ小説じゃないんだぞ!素人が!と言いたくなる。当の本人たちが何人か出演して証言しているのだけど、よく顔出しするな…ってなる(毎度のことだけど)。なかには、精神的に参っているときにこの事件を知り、女性を助けたい一心で関わったと一見とても“真摯”な感じで話す人もいるのがまたきつい。事件解明後に実際にホテルに行って現場を撮影したりして、ほんとに質が悪いよ。もう一度書くけど、よく顔出しするな…(ギャラが良かったのか?)。あげくのはてに誤情報を流して冤罪ケースまで作ってしまう。最悪だ…。

 

自己顕示欲と現実の事件を消費してる感覚が本当に不快極まりないけど、彼らはエクストリームだとしても、誰しもこうやって事件を楽しんでいる要素って、多かれ少なかれあるよな、と思う。「猫イジメに断固NO! 虐待動画の犯人を追え」でも似たようなケースが描かれたけど、インターネットがある限り、素人が犯罪捜査に加担することは避けられないのだろう。警察がどう動くかは別問題としても、風評被害はネット内で広がって致命的なダメージを与えてしまう。

 

f:id:virgiltx:20211211184251j:plain

 

事件の顛末はさておき、観ていてとても興味深いのが、この事件の主役のひとりでもあるセシルホテルだ。こんなにネット民が盛り上がったのも、このホテルの黒い歴史あってこそだった。景気の良かった20年代半ばに建てられた瀟洒な建物。しかし大恐慌であっというまにLAのダウンタウン全体がさびれてしまい、現在に至る。特にスキッドロウと呼ばれるエリアは、ホームレスの人々や薬物中毒者、刑務所から出たばかりの人、精神病院にいた人など行き場のない人間が最後にたどり着く場所であり続けた。むしろ行政はシェルターや食べ物を配る施設を集中的にここに作って彼らを閉じ込めることで、ほかの場所へ行かないようにしていた。なんと、Netflixシリーズの「ナイト・ストーカー シリアルキラーの捜査禄」で題材になっているナイト・ストーカー自身も、逃亡中にこのホテルにしばらく居たという事実が、このホテルの性質を物語っている。

 

セシルホテルでは昔からあらゆる犯罪が横行していたが、それを知らずに宿泊する海外からの旅行者も多い。実際に事件の最中に宿泊したイギリスからの旅行者が出演していて、怖いと思ったけど安いし寝るだけと割り切って滞在し続けたと話す。憧れのLA!とテンション高い状態で泊っていればその程度の感覚なのかな、という例。だが、私も事件があった時期と近い2011年にあのあたりを通ったことがあるので、いやいや、すぐホテル変えるでしょ…と思ってしまった。LAのダウンタウンがヤバいのは常識だ(と思う)。部分的に開発が始まっていたけど、それでも一目でこのへんヤバいな、と分かるレベルだった。ダウンタウンの近くにあるLAの鉄道駅から電車に乗ったので、ちょっと見ていこうかなと頭をよぎったけど、バスで通って様子見たら、やっぱ無理、とあきらめた。スキッドロウに詳しい人も出演していて、このへんのこともっと知りたくなる。

 

f:id:virgiltx:20211211184112j:plain

下層階は別名のホテルとして営業している。上層階はセシルホテル。

当時のホテルの支配人が、ホテルを弁護するためにきびきびと証言しているのが印象的。あの手この手で経営を立て直そうと大変そうだ。なんでこんな評判の悪いホテルがそもそも存続できるのだろうと不思議になるが、地元では需要があるし、知らずに宿泊する海外旅行者もいる。日本ではあまり聞かないが、アメリカではアパートの部屋を借りられない人たちが週、月、ときには年単位で部屋を借りられるホテルがある。私が1997年にNYで滞在したホテルも、ほぼ住んでいる人たちがたくさん滞在しているホテルだった。一緒に行った友人の親の知り合い(日本人の料理人見習い)が住んでるところなので、セシルホテルのような物騒な場所ではなかったが、ある日帰ったらおじいさんが死んでしまって警察が集まっていた。初海外旅行の私にはまあまあ刺激的だったかな…。今も同じ名前で営業していて、NYの地価高騰の御多分に漏れず、1泊3万円のホテルとして生まれ変わっている。当時のことを書いた昔のブログ記事を見つけて、懐かしく読んだ(書いたことってほんと忘れる)。