Netflixオリジナルの北欧ミステリー２本。
疑わしき殺人者
北欧ミステリー小説を読んでいると、80年代に起きたスウェーデンのオロフ・パルメ暗殺事件が常識として出てくることがある。ちょうど詳細を知りたかったので、飛びついたドラマ。未解決事件として処理されているが、警察は真犯人を特定している。
妻と映画館から出た首相が射殺される。現場にいた人々や目撃者の情報を集めると、ヘンな奴が1人いた。グラフィック・デザイナーのスティグ・エングストロムは、自分も救急処置をしたと話す一方、証言に一貫性がなく、やたらメディアに出たがる。退職寸前のベテラン刑事は彼を第一容疑者とするが、殺人捜査に不慣れなよそ者が捜査を指揮することになり、スティグはよくいる目立ちたいだけのしょうもないやつだと一蹴された。陰謀説がでたり違う人物を逮捕したり迷走したまま時間は過ぎていく。
80年代当時の捜査と、90年代までのスティグの私生活、そしてジャーナリストが本を書くために取材する現代のシーンで構成されているので、時系列があちこちに動く。私は主語が誰か分かりにくくて字幕が辛いなぁと思ったけど、ほかの感想を読んでもあまり触れられてないので私だけかも…。非英語圏だと確認もできず。
一国の首相が突然道端で殺されると、政敵による暗殺など情報が錯そうする。なんだってありうるように思えるが、結局は捜査でしか犯人にたどり着く術はないわけで、怪しい人物をみすみす野放しにした捜査ミス、という結末。要人暗殺はいつも陰謀説がつきまとうが、現実にはこういうアンチクライマックスもあるよなぁ。上流階級の人間と付き合ったり政治に手を出しても、どこかうだつが上がらない男に魔がさして、首相を撃つ。あまりに偶然に大ごとやらかしているので、逆にドラマチックにも見える。人生にうんざりしてる人間なんて山のようにいるのに、実際に行動にでるか否かの線引きってなんだろう。あくまで事件を再現した仮説を基に作られたドラマではあるけれど、事件を最初に知ったときのスティグの妻の描写は、これは勘が良すぎでは…と冒頭はちょっと引いてしまった。
チェスナットマン
原作本を先に読もうと思ってたけど、ついドラマ版を観てしまった。経験的に、ドラマが面白かったら原作は更に面白いことが多い。人気ミステリー小説によくあるように、シリーズ化にされないかなぁ。主人公の女性刑事と、暗い過去を持つ相棒、すれ違いながらいい感じになったら…。そこは北欧ものなので、微妙にかすかに匂うくらいの案配でやってくれるのではという期待をこめて。原作者は「The Bridge」の脚本家とか。なるほどー。
連続女性殺人と、大臣の娘失踪事件のつながりを主人公2人の刑事が解明していくデンマークを舞台にしたミステリー。正直、事件はそれほど目を見張るような展開じゃなかった。どうもこういうパターンはあんま好きじゃない、てやつだった。でも多いのよね。原作は文庫本で688ページと長いものの、ドラマは6話と短いので、だいぶ端折ってるのかもしれない。のろのろと進んで終盤急展開する。私は事件の顛末よりも、2人の刑事の関係がどうなっていくのかなーってところが気になって仕方ない。相棒が空気を読まないタイプなのもいい。
北欧発の女性刑事ものといえば、「The Killing」、「The Bridge」と傑作揃い。ほかにも女性刑事といえば「女刑事マーチェラ」を思い出すが、女性が主人公になると、私生活で深い悩みを抱えている設定が多い（The Bridgeは自閉症なのでちょっと違うか）。とにかくこんなにイジめないでもいいだろう！ってくらい苦しめる。「チェスナットマン」も私生活で家族と仕事の両立に悩んで異動願いを出している。もちろん主人公が男の場合も、刑事ものあるあるの苦悩に苛まれている設定は多い。家族との不和や孤独、中年の危機などなど。でも女性になると、もっと精神的な負荷がかかっているように描かれるのは、ちょっとフェアじゃないのでは？と思ったり。まあ現実なのかもだけど。男女の刑事の描写の違いという点で観たとき、Netflixシリーズの「The Sinner」はちょっと新鮮だった。これは男性（ビル・プルマン。かっこいい！）なのだが、女性っぽく壊れていくのがちょっとほかと違うなぁ、と。男性刑事はどんなに極端なことをしても、やはりmanlyなんだけど、The Sinnerは女性のように感情がやられてぼろぼろになる。このぞうきんのようになってしまうビル・プルマンが色気あるのよ…。来年1月にS4が始まるので楽しみ。
